久米島の企業の魅力を知る
『当たり前のことを当たり前に大切にする』久米島赤鶏牧場
『当たり前のことを当たり前に大切にする』久米島赤鶏牧場
住宅街から少し離れたところ、久米島の風が気持ちよく吹き抜ける山の中腹に立地する鶏舎。この場所で育てられた鶏を取り扱っている飲食店は現在100店舗以上に上ります。それほど多くの料理人に支持される鶏を育てているのが、久米島赤鶏牧場です。
「品種はフランス原産のレッドブロー。長い脚が特徴で運動量の多さから生まれるプリっとした肉質が売りです。」
赤鶏を育てている山城昌泉(やましろ・しょうせん)さん。久米島出身で元々は沖縄本島で運送会社に勤めていたそうですが、家族が始めた養鶏業を手伝うために久米島に戻って来たそうです。
久米島赤鶏の美味しさの秘訣はエサにあり。実は久米島島内の泡盛メーカーで出た酒粕を配合して鶏に与えています。
「うちの鶏は飼育日数が長いので、肉に臭みを感じる、という方もいたんですよね。酒粕を与えるとその臭みが無くなって、本当にジューシーな肉質になるんです。」
元々はコストカットのために与え始めたのがきっかけ。鶏の健康を害してしまい、最初は全くうまくいかなかったそうですが、研究を繰り返し、今の形にたどり着いたそうです。
養鶏を始めて17年。今でこそ、久米島の赤鶏は多くの方に認知されるようになってきましたが、始めた当初は販路もなく、育てた鶏が余ってしまったこともあったそうです。そんな大変な時期を乗り越えられたのは、自分たちの鶏を気に入ってくれたお客さんがいたからだと言います。
「僕らが続けられたのも、赤鶏を食べたお客さんがわざわざここまで来てくれたりしたからなんですね。人が食べるものを自分たちは作っているんだなということを、僕は養鶏をするまで実感できなかったですね。」
生産者の向こうには必ず消費者がいること。言われてみれば当たり前のことなのだと思います。しかし、生産者と消費者の距離が離れてしまった現代。そのことを自覚することは難しくなりつつあるそうです。
「農業の醍醐味は食べてくれた人のことを考えることにある。そこが一番嬉しいはずなんですけどね。お金のことだけを考えると、農業ほど割に合わない仕事はないですよ。」
また、養鶏をやるようになって気付いた大切なことがあるそうです。それは『命』を扱っているという自覚。
「自分たちで屠殺をする経験をしている農家さんって少ないんですよ。しかし、それをやることで『命』をより意識するようになりましたね。だからこそちゃんと食べてあげたいし、だからこそ美味しい肉でないといけないし、だからこそいいお客さんに買ってもらいたいんです。きれいな仕事じゃないですからね。でも、とても意味のある仕事だと思っています。」
養鶏業が安定してきた今、山城さんが目指すのは循環型の農業のあり方。動物を育てて、その堆肥を畑に返して、出来た牧草をまた動物に与える。すごいことを目指しているようにも聞こえますが、実は、つい最近まで島では普通に行われていたことでもあるんです。
「元々自給自足が可能だった島。うちの親の世代ですら、中学生までは電気も水道もガスもなかった。一面が田んぼで食べるものもみな自分で作っていましたから。その時代から引き継がれてきた知恵がたくさんあるんです。その知恵を生かしながら、農業に向かうことはとても大切だと思います。」
「考えれば考えるほど、当たり前のことをやりたいなっていうだけですね。」
受け継がれた知恵で土地の恵みを生かし、誰かのために野菜を作ること。昔の人が当たり前に行ってきたこと。効率化や技術の発展の中で忘れ去られてしまった農業のあり方をもう一度見直すときなんだと思います。
「農業はこれから面白くなってくる産業だと思います。だから、どんどん参入して欲しいとは思いますけどね。」
古きを尊び、新しきを作る。農業のあり方を真摯に捉える久米島赤鶏牧場さん。
農業のこれから、明るい未来を見れたような気がしました。
インタビュー:岡本耕平